吉野裕之さん講演録「福島で希望を持ち続けるために~今、子どもたちのために取り組むべきこと~」(前半)
6月8日に「須磨の家 ふくふく」で開催した、たこ焼きキャンプ講演会の内容をお伝えします。

講師は、吉野裕之さん。
吉野さんは福島市在住。震災後、奥さんとお子さんは京都に避難されましたが、吉野さんご自身は福島市に住み続け、子どもたちを放射能から守る活動をさまざまに展開しておられます。
現在はNPO法人「シャローム災害支援センター」に勤務し、子どもたちの保養プログラムや移動教室の拡充のために尽力するほか、保育園などと連携して最新機器による身近な地域の放射線測定に取り組んでおられます。
当日は、被災地に身を置きつつ活動されている吉野さんならではの、貴重なお話の数々をお聞きすることができました。字数の関係上、2回に分けてお届けしますので、どうぞじっくりとお読みください。
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◆吉野裕之さん講演◆
「福島で希望を持ち続けるために~今、子どもたちのために取り組むべきこと~」

関西では子どもたちはのびのびと遊んでいることと思いますが、福島は震災4年目に入ってもまだ厳しい状況が続いています。
東京でおこなわれた保養で、ある赤ちゃんは生まれて初めて芝生に座って草を触りました。一緒に来ていたお父さんは「初めてなんです」と本当に感動しておられました。子どもたちが保養に来て走り回る姿を見てお母さんたちが涙する、そんな状況が、ここ関西での保養キャンプでも見られるのではと思います。
そもそも、私たち一般市民の追加的被ばくの許容基準は、原発事故前まで年間1ミリシーベルトだったはずです。それが今では20ミリシーベルトに変わり、それ以下なら戻って生活しても大丈夫ということになっています。田村市都路地区などでも、最近避難解除がおこなわれました。まだまだこれからも、この20ミリシーベルトが基準になっていくと思います。その中では当然学校も再開されて、子どもが戻っていく。
1時間あたり0.6マイクロシーベルト超、年間5.2ミリシーベルト超というのが放射線管理区域ですが、そこでは不必要な被ばくを防ぐため、不要な立ち入りは禁止、18歳未満の労働は禁止、大人も飲食禁止、寝るのも禁止です。そこで働くには、必ず線量計を身につけ、年間の被ばく量を測定してもらわなければならない。放射線管理区域というのはそういう場所です。
しかも、これは大人の基準で、子どもは何倍も放射線の影響を受けるといわれています。大人の基準を子どもにあてはめようとしています。
福島市では、市政だよりに挟まって、市内の放射線マップが全戸に配布されています。そういう現実があります。そしてその市政だよりによると、今年度の復興事業費の中の「ふるさと除染実施事業」に、福島市だけで877億円もの予算が使われています。それだけのお金をかけなければ除染できない現実があり、除染しただけの効果は確かにある。やらなければならない事業ではあるわけですが、そこに877億円。しかし、除染だけですべてが解決するわけではない。
しかも、追加被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下となる目安をクリアする地域は、福島市全体のまだ2割。除染の進捗率自体は、今のところ福島市全体の3割にとどまっています。
福島市のある場所の舗装路の放射線を測定した結果ですが、道路の左側、真中、右側でそれぞれ、地面からの高さ5㎝、50㎝、1mで測定しています。すでに除染している道路の真ん中は、0.3マイクロシーベルト強。除染済みですので、これよりはもう下がりません。道路の左は側溝の上で、もう少し高くなっています。右側は、側溝の脇に土があるところ。ここが高くて、地上1mですでに0.6マイクロシーベルトを超えています。地上5㎝では1.36。つまり放射線管理区域の倍あるということです。
通学路でも、子どもたちは除染されて線量の下がった道路の真中ではなく、線量の高い側溝や土のある道路の端を通ります。しかも子どもの身長は低い。しかし、「福島市の空間線量」として発表されるのは、地上1mの線量、しかもモニタリングポストの測定値です。
モニタリングポストは、周辺をきれいに掃除して、コンクリートの基礎を打って作っています。ですからほかの場所より線量は若干低めに出ますし、地上に近い線量は測定されません。一般に発表される数値は、このように実際子どもが歩いている場所や、子どもに影響が大きい地上からの距離とは異なる高さで測定されたものであるということを頭に入れてほしいと思います。
ですから、子どもたちもどこなら線量が低いかを考え、できるだけ安全なところを歩くすべを身につければ、無駄に線量の高いところを歩く必要はなくなるんです。放射線に汚染されてしまったところに暮らす子どもたちは、状況を学びさえすれば、無用な被ばくを避けることができるといえます。でも、そういうことは学校ではあまり教えていないと思います。放射線の有用性についてばかり教えるのではなく、身近な線量がどうなのか、どう対処可能なのかということを教えてほしいと思います。
レンガやインターロッキングを全部取るなどしないと、線量が下がらない場所もあります。しかし、それをどこにに持っていくんだといっても、中間貯蔵施設もまだ決まっていないし、仮置き場でさえすでに一杯。やりたくてもできないという状態です。
このような状況の中、外で思い切り遊べない子どもたちに広がっているのが、全国平均を上回る肥満傾向と運動能力の低下です。また、学力の低下もいわれています。発達過程で思いのままに遊ぶことがなく、制限のもとに遊ぶことが常態化していることが、やはり学習面にも影響してくるのではないかと思います。
外に出て遊ばず室内でゲームをしている方がいいという子も増えています。遊びの中で外界に対して働きかけ、そこから得られるものから学ぶということ、自然を相手に自分の世界をつくり出すということが存分にできない現状が、子どもの感覚や感情の発達にどう影響するのかということも、今非常に問題になっています。
また、幼稚園や保育園はほとんど車で送り迎えする、外で身体を使って遊ばないことで、例えば就学年齢になった子のほとんどが片足で立って靴がはけないという話を聞きました。
そういう状況を受けて、今も屋内の遊び場が大規模に整備されています。何億円もかけて作った屋内遊び場もあります。これはこれでいいことですし、必要ではあると思います。ただ、自分で判断し、想像力を働かせながら好きに遊べるわけではない。
子どもの遊び場にとって一番大事なことは何か、という話を聞いたことがあります。
それは、「壊せるかどうか」ということ。前の子がつくったものを壊して、新しく自分で何かをつくる。既にあるものを壊して、マイ・ワールドをつくりだす、そういう中で子どもは育っていく。何十秒で交代だよ、という屋内遊具などの遊びだけでは、ルールは身につくかもしれませんが、自然の中で壊してつくる、という感覚や美意識を養うことはできない。自然の中で遊ぶということは本当に大事なことなんだなあと思います。

そうこうする中で、つい先日発表されたのが、「屋内活動だけでは福島県内の子どもの問題解決は難しいので、今後は屋外活動の拡充に乗り出す」という県の方針です。
これは、みなさんがやってくださっている保養プログラムのように、やはり自然の中で遊ぶのが大事なんだと県も認めたということでもありますが、やはりこれはできるだけ放射線から距離を置き、遠方でおこなうことが大切です。とはいえ、毎日の幼稚園・保育園や小学校で、なんとか安全に運動する工夫も必要です。私たちのNPOでは、今、幼稚園などのお散歩コースの線量を細かく測って調査する活動を進めています。
震災以来、まだ一度も外へお散歩に行っていない園もあるようです。県外から安全などんぐりや葉っぱを送ってもらい、それで工作しているところもあるのが現状です。
そこで私たちはこの6月から、実際に子どもたちがどんなコースを歩いたら安全かを園の先生や保護者と一緒に、実際に細かく測って記録することにしました。その結果を共有し、じゃあどのコースならお散歩ができるか、ということを考えるようにしようと思っています。
ホットスポットファインダーという最新の機器を使って測定するのですが、これの特徴は、結果をグーグルアース(パソコン等で地図のように見ることができる衛星画像)に直に反映させられるというところです。福島市のグーグルアースの俯瞰写真と測定結果を重ねることで、子どもたちがどの道の、しかもどちら側を通ればより安全かが、一目瞭然にわかるんですね。
このホットスポットファインダーという計測器は、身につけて歩くだけで空間線量が自動的に、一秒ごとに記録でき、また平均値も設定にしたがって自動で出してくれます。
除染が済んだところは線量は低いですが、各所に高い場所があるものわかります。
たとえば公園でも、隣の家の雨どいからの水がたまる場所は、1.7マイクロシーベルトもある。これがわかるだけで、この公園で子どもたちが遊ぶとき、その場所に近づかないように促し、無駄な被ばくを避けることができます。このように細かく測定して、それを行政に伝えることができれば、重点的にそこを除染してもらうこともできるのではないでしょうか?このような活動をしていくことで、子どもたちの被ばくを避けつつ、日常の運動を量と質を確保することができるのではないかと思っています。
先日、うちの娘が本当だったら行くはずだった小学校の近くで計測しました。テニスコートの前がレンガ敷きなので(放射能物質が染み込んでいて)0.4マイクロシーベルトを越しています。ここに子どもたちが並んで、地べたに体育座りして順番を待ったりするという光景に、とても抵抗がありました。
空間線量をなぜ地上1mと50㎝で測るのか、ご存知ですか?
キリがいいからじゃないんです。大人が1m、子どもが50cmというのは生殖器の位置を想定しているんです。放射線って、次世代を残すための機能に一番影響するから、ショウジョウバエに、次の世代を生ませないように放射線を当てたりするんです。
つまり、こういうところに体育座りするっていうことは、生殖器を危険なところに一番近づけることを意味するんです。
そんなこともあって、ホットスポットファインダー、今は地上50㎝の測定で使っていますが、今後は地上10㎝、50㎝、1mの高さの測定ができるだけの装備をそろえたいと思い、アメリカの団体から支援金をいただいています。
子どもが遊ぶ場所、ひとつひとつ注意しながら生活するというのは、本当に大変なことです。そんなに大変で不安なら避難すればいいじゃないかといわれるかもしれませんが、そうするわけにもいかない。仕事がありますから。自分の子どもに、何かしら身体的な負担を強いてしまってやしないかというのは、大きな不安材料です。だから保養プログラムがあれば、そこに出したいという親御さんがいっぱいいるんですね。
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